そんな今日この頃でして、、、

コード書いたり映画みたり。努力は苦手だから「楽しいこと」を探していきたい。

「サイバーパンク」と出会おう!『楽園追放 rewired』感想

週末の劇場公開を控え、CMを良く見るようになった劇場アニメ作品『楽園追放』。

個人的には「女性主人公」で「SFアクション」な「劇場公開」「3Dアニメ」というと過去の諸々の残念な作品を連想してしまいどこかネガティブなイメージを持ってしまうが、一方で『まどか☆マギカ』『翠星のガルガンティア』とかなりツボを突いた作品を作ってきた虚淵玄氏が脚本ということでどうしようもなく興味を惹かれてしまうのも事実である。


さて、それはそれとしてこの本は”「楽園追放」影響を受けたサイバーパンク作品8篇”を集めた短篇集。

いわばサイバーパンクの"古典"であるウィリアム・ギブスン氏から現代的なテーマ設定が魅力の藤井太洋氏まで、新旧国内外を問わず取り揃えられている。

そんなわけで各章感想。

ウィリアム・ギブスン「クローム襲撃」

薄汚れた街、夢に生きる男、夢を追う少女、夢を見ない男。

テクノロジーを生業としながらも、それによって失われゆくものに哀愁を感じる主人公。

賞金稼ぎのハッカーものというテーマと鬱屈した空気感が実に「サイバーパンク!」な作品。

ブルース・スターリング「間諜」

科学万能文明vs人間中心文明。

科学文明圏に属する主人公は、エージェントとしてテクノロジーを否定しマヤ文明を信奉する組織に潜入し、己の起源を知る。

スターリング氏の作品は初めて読んだのだが、なるほど伊藤計劃氏の『ハーモニー』を読んだ時のような皮肉の効いた「発想の逆転」を味わえる。

神林長平「TR4989DA」

軌道上に浮かぶ巨大な人工知能群より、「自己保存機構」を危険視され排除されたユニットTR4989DAの冒険。

戦闘妖精・雪風』でお馴染みの氏の「人類以外の知性」への想像力が発揮されている。

戦闘妖精・雪風(改)

戦闘妖精・雪風(改)

でも後半の飛躍はちょっと好きじゃなかった。

大原まり子「女性型精神構造保持者」

いわゆる「サイバーパンク」とはちょっと趣向が違う、ファンシーでグロテスクな人格ある都市とその子供の物語。

「女性型精神構造保持者」とは作中における感情移入的な者を指すと同時に、都市や政治の移り気さに対するメタファーなのではないかなと読めた。

ウォルタージョン・ウィリアムズ「パンツァーボーイ」

政府が崩壊したアメリカを舞台に、武装ホバークラフト「パンツァー」を駆る運び屋の物語。

身体をコックピットに格納固定し、神経を接続して、パンツァーそのものを身体とする主人公たち。

機械により拡張された身体性の表現が秀逸。

チャールズ・ストロス「ロブスター」

ITテクノロジーの発想がリアルワールドにまで拡大した近未来を夢想した物語。

前章が機械によるものだったのに対し、こちらは情報工学的な意味での身体拡張。


ウェブを生業としていることもあってか、この短編の中でも最も興味を惹かれたのが本作である。

本作はそのまま『アッチェレランド』の第一部第一章に組み込まれているということなので、早速ポチってしまった。

アッチェレランド (海外SFノヴェルズ)

アッチェレランド (海外SFノヴェルズ)

吉上亮「パンツァークラウン レイヴンズ」

さながらウェブシステムのように、個人を認識し最適化された人生を与える都市。

この「万人のための機能」があたかも「神の意思」のように人の生き方をコントロールする。


このあたりの「情報技術による人のコントロール」という発想は『ウェブ社会の思想』でわかりやすく解説されている。

ユビキタス」といえばここ数年めっきり聴かなくなってしまったバズワードではあるが、しかしそれはあえて意識しなくとも情報技術が一般生活に入り込むことに馴染んだが故とも言える。

情報技術は規制の存在そのものを利用者に悟らせずに規制を行うことができる。

このことは便利であるとともに、見えない何者かにコントロールされるという恐怖をも孕んでいる。


そして、この「意思」というものへの疑念はそのまま「人」にまでも転化されるようだ。

本作はシリーズの前章にあたる物語のようだが、本編では恐らくそのあたりがキーになってくるのであろう。 (このあたりのテーマ設定はそこはかとなく伊藤計劃氏の作品とも近い空気を感じる。)

「強化外骨格を纏った主人公と同じ力を持つ敵とのバトル」という特撮ヒーローのような外郭を持ちながらも、内部ではしっかりSFしてそうで興味をそそられる。

藤井太洋「常夏の夜」

Gene Mapper』でお馴染みの藤井太洋氏の作品。

本作でも元エンジニアらしい現実的なテーマ設定と地に足がついた技術やガジェットを活躍させて、希望ある未来を描いてみせる作風は健在。

サイバーパンク」というと物語の結末如何に関わらずどこか技術に対しネガティブな描き方をするのが常道なのだが、だからこそ氏のような技術のポジティブな捉え方をする描き方には新鮮味を感じるし、技術職としては好感を覚える。


正直な所ハードウェア系には苦手意識があったのだが、本作を読んでいたらマルチコプターやRaspberry Pieに興味を惹かれてしまった。

意外と動画撮れるようなやつでも1万円弱で手に入るのね。買ってみたくなった。


虚淵氏のまえがきにある"「人とはなにか」「テクノロジーが人をどう変えていくか」という問いこそがサイバーパンクのコアである"という捉え方には個人的には非常に共感できる。

それぞれの作品でどこか「時代感」みたいなものを感じ取ることができて興味深かったし、知らなかった作家と出会う良い機会にもなった。

「楽園追放」自体に興味は無くともSF好きならば楽しめるラインナップになっているし、興味があればなおさら「どこに影響したのか」を見つける楽しみができる。

短編なので読みやすいし、非常におすすめな一冊である。