オーウェルといえば一般には『1984年』の方が先に挙がりがちだが、あちらは(世界観やガジェットやテーマ性には目を見張るものがあるものの)物語としては正直退屈で読みづらいのに対し、こちらは寓話というフォーマットに落とし込まれていて短く読みやすいのが良い。
よく反共の文脈で語られるし、実際ソ連をモデルとして書かれたものではあるが、内容的には「思想そのもの」というよりは「教義を歪め利用する手法」を対象として批判したものであり、権力闘争一般への風刺として読むことができる。
そして「ディストピアもの」というくくりとして見ても、すでに完成されたディストピアを描いたものは数多くあれど構築されていく過程を描いたものは存外少なく、そういった意味でも興味深い一冊である。
動物農場: 付「G・オーウェルをめぐって」開高健 (ちくま文庫)
- 作者: ジョージオーウェル,George Orwell,開高健
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2013/09/10
- メディア: 文庫
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本作は、農場主を追放して動物たちだけの理想郷を築いたはずが、いつの間にか豚の独裁者による恐怖政治の支配するディストピアとして化してしまう様を描いた物語である。
動物は自分たちをこき使う人間を追い出し、高潔なる大義を掲げた共同体「動物農場」を設立した。
しかし、狡猾な豚たちは外圧を煽り、議論を無力化し、時には記憶すらねじ曲げながら権力構造を確立していく。
哀れな動物たちは理想を盲信するあまり疑問を持つことすら己に禁じ、ただただ搾取されてゆく。
物語を読んでいると、悪辣な豚たちやそれに従って喚き散らして議論を殺す羊に対し当然の反感を持つが、その一方であまりに物を考えなさすぎる動物達にも苛立ちを覚えた。
(と同時にある種の嗜虐的な快感すら覚えた。開高健の評論に従うならば、これこそが権力欲の根源なのかもしれない。)
美辞麗句に踊らされ、目の前の現実を受け止めず、簡単に過去の事を忘れてしまう。
転じて、動物ではない人間はどうあるべきかということを考えさせられる。
「お国のため」みたいな分かりやすいものだけではない、その対局にある「反権力」もまた、大義という名で馬鹿を従わせる口実として利用される。
ある一方に問題があったとして、その反対勢力の問題が無効化されるわけではない。
大切なのは、ただの言葉でしかないスローガンに盲目的に従うのではなく、常に何が本質なのかを考えること、そしてそのために忘れないこと。
本著の後半には、オーウェル著書への評論が収録されている。
僕のような『1984年』が消化不良だった身にもその真意が伝わりより楽しめるようになったし、その他のディストピア作品との接続性の話も興味深かった。
「ディストピアもの」というジャンルそのものが好きな方にはオススメできる一冊だと思う。
- 作者: ジョージ・オーウェル,高橋和久
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/07/18
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