久々にカッチリした感じのSFが読みたいぜってことで本作を消化。
少ないページ数でサクッと読める分量ながらも、前作同様にガジェットや設定のディティールと展開のテンポの良さに引き込まれた。
- 作者: Fujii Taiyo
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2013/02/01
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3年後の日本
本作が舞台とするのは2018年の日本。
先進国の体裁は保ちながらも内情は膨れ上がる社会保障費用を支えるための増税により疲弊し、着実に衰退の道を歩んでいる社会。
上の世代は「逃げ切り」を決め込み、そこからこぼれ落ちた若者達は移民と競いながらその日暮らしの生活をしている。
悲しいことではあるが、そんな未来予想図にリアリティが感じられてしまうのが現実である。
だが、主人公であるところのWebを生業とする3人の若者は、それを恨めしく思うことはあれど悲観に染まることなく逞しく生きていく。
ITが繋ぐ地下経済
タイトルからも分かる通り、本作のキーとなるのが政府の税制の監視を逃れた違法な経済活動「地下経済」。
地下経済というと闇市的な小規模なものを想像しがちなところだが、21世紀ともなれば電子貨幣を用いたまさしく全世界的なネットワークがその基盤となる。
作中の世界では、移民と重税に後押しされて日本でも普及している。
それは持たざる者たちのライフラインとなり、日々の生活から仕事の報酬まで、あらゆる場所で用いられるようになっていた。
前作『Gene Mapper』や『楽園追放 rewired』収録の「常夏の夜」でも現実感ある設定やガジェットが魅力的ではあったのだが、本作では更に近い未来、そして著者自身がエンジニア出身であることも手伝い、現代でも十分実現しうる技術によって話が展開されていることが面白い。
物語自体は極めて個人的な事件に終始しており先に示した2作に比べるとスケールはいささか小さくなっているが、その分リアリティを感じられた。
僕に関して言えば年齢も職業も登場人物達に近いこともあり、また舞台となっている東京・横浜に住んだことがあってかなり入り込んで読むことができた。
老人の「農村生活に戻ろう」的な戯言ではない、現実的な「衰退した日本」像。
実際のところ、僕らの未来は親世代ほどに幸福ではいられない可能性が高い。
本作が描く物語も、ハッキリ言えば決して夢のある明るい結末ではない。
だが、この物語を読み登場人物達の前向きさを見た後にはどこか希望を見いだせる気がしてくるから面白い。
同シリーズでは既に前日譚となる「ヒステリアン・ケース」とブラッシュアップ版(?)「アービトレーター」も積んでいるんで、これも機を見て読みたい。
- 作者: 藤井太洋
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2013/10/25
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- 作者: 藤井太洋
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- 発売日: 2014/03/27
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(・・・今更ながらブラッシュアップ版だったんなら無印買わないでも良かった気がしてきた)