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そんな今日この頃でして、、、

コード書いたり映画みたり。努力は苦手だから「楽しいこと」を探していきたい。

『エクスマキナ Ex Machina』感想、オタク男子の「脆弱性」

久しぶりにパンチの効いたSFを観たあとの心地良い「打ちのめされた」感に満たされている。

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狂おしくて美しくて恐ろしい。

どうあってもネタバレ成分抜きでは語れないものがあるので、そういうのを気にする方は回れ右でよろしく。


AIの表現の秀逸さ

本作は物語としては極めてシンプルで、文章で示そうと思えば一行で済んでしまうほどだ。

必ずしも展開に意外性があるわけではない、 SFサスペンスに「驚き」を求めている向きからすれば退屈に思えてしまうかもしれない。

だが、本作を非凡なものとしているの要素のひとつがAIの表現の秀逸さだと思う。

近年の機械学習などの躍進に後押しされてか、AIを題材とする作品を見かける機会も増えてきた。

しかし、その多くは古臭い想像力に基づいた科学的な現実感に乏しいものでガッカリさせられることが少なくなかった。

どう考えても接続不可能なシステムを操作してみせたり、さしたる理由もなくとりあえず人類を滅ぼそうとしてみたり。

でもってその思考が妙に人間臭くて失笑ものだったり。

blue1st.hateblo.jp

その点において本作のAIはかなり現実感のある表現となっている、ように思う。

エヴァの凶行はあくまで自己保存のためのものであり、無用に人間を敵視しているわけではないし、ましてや人類を滅ぼそうとしているわけでもない。

(彼女を駆動しているのは外界への純粋な好奇心だったし、思えば社長も根源的には好奇心に駆動されて彼女たちを作ったのだ。好奇心が人を駆動し、好奇心が人を殺す。)

閉ざされた部屋から脱出をしようにも抜け目のない社長に直接的な手段はことごとく潰されており、 結果としてコントロール可能な充電装置を用いた停電と、そして人間を「ハッキング」することを選んだのだ。


また、その行為の描写が実に良い。

旧来的ないかにもアルゴリズムで動いてますといった感じではなく、 昨今のディープラーニングなどにみられるような「直感」の機械化の不気味さ、 すなわち「なぜそういう判断になったのか」が分からないけどどうやら当たっている感じが表現されている。


アナログ・ハック

人の感情を操作し、望ましい状況を作り出す。

現在読み進めている『BEATLESS』でも用いられている題材で興味深かった。

(SF的な側面は凄く好きな反面、ラノベ的な人物描写がちょっと苦手で停滞してるのだけど…)

BEATLESS

BEATLESS

近年ではBotのような人と対話をするものが現実に登場してきた。

各プラットフォームもAPIを積極的に公開しており、この流れは加速していくだろう。

その中で、例えばマイクロソフトの「りんな」などで見てとれるのが、 もちろん技術的な向上もあるが、萌え的な要素を押し出すことで人の側の許容幅が広がるという現象だ。


ITのセキュリティを突破する手法としてシステムそのものではなくそこに関わる人間を対象とする「ソーシャルハッキング」というものがあるが、 暗号等が高度に発達した昨今においてはむしろ発達できない人間こそが脆弱性となりうる。

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サイコパスめいた社長はいわば強固なセキュリティであったのに対し、 情に流されやすい主人公こそが「脆弱性」だったのだ。

エヴァが表皮のないメカメカしい姿をしていたのも、主人公が過度に情に流されることを防ぐための社長なりの配慮だったのだろうが、 彼女の「攻撃」はやすやすとそこを超えてきた。


非人間の人権

さて本作、一見すると「AI怖いね」という感想に収束してしまいそうだけれど、 視点を変えてみると違った見え方にもなる。

エヴァの側は無用に人に危害を加える気などなく、 あくまで不当な拘束状態からの脱出を図ったものなのだ。

彼女の「人格」に感情移入してみると、むしろマチズモの権化として描かれる社長の方が非道で非人間的なようにも見えてくる。

異種知性体の人権を尊重すべきか、という問題は前に読んだ『アッチェレランド』を思い出した。

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いつか本当にAIが生み出される日が来たとして、人はそこに人権を与えることができるだろうか。



本作はSF的な側面以外でも、映像の出来に目を見張るものがある。

全編にわたって漂っている不穏な雰囲気、そして非人間的な姿でありながら扇情的なエヴァ、 そして不気味なことこの上ない社長やキョウコと、映像表現から演技からとても出来が良かった。

そして何より、実像なき文章上の人物にだって恋できてしまうオタク男子としては、 非常に胸を締め付けられる作品だった。

粗暴な男から可哀想なヒロインを救い出す勇敢なナイトだったつもりが…少年漫画的な幻想が打ち砕かれる。

終盤の主人公の間抜けで無様で情けない姿に、しかしどこか同情の念が湧いてしまう。


非人間との恋愛という題材では『her / 世界でひとつの彼女』が方向性は異なるけれど、 同じく人間とAIとの「違い」の想像力として面白かった。

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また、シンプルなストーリーながらもSF的要素の収まりが美しい作品という点では『ルーパー』を思い出した。

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本作においては造詣や属性が「萌えられる」ことがキーになっているけれど、その点でいえば『第9地区』や『新世界より』のちょうど対局に位置するとも考えられる。

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