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そんな今日この頃でして、、、

コード書いたり映画みたり。努力は苦手だから「楽しいこと」を探していきたい。

映画『虐殺器官』感想

伊藤計劃 映画 アニメ

制作会社が倒産して一時はどうなるものかと思っていたけど、 ついに公開ということで早速観に行ってきた!

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前の2作品は映像化にあたって結構な変更が加わっていて、 BL/百合アレンジについては商業的に仕方ないにしてもSF的な味を損ねてしまっている箇所については原作ファンとしては許容しがたい部分もあった。

blue1st.hateblo.jp

その流れもあって本作についても期待半分不安半分だったのだけど・・・、 かなり原作に沿っていてファンとして安心感があるし、元々映像的な作品だったこともあって新規さんも入りやすい作りになっていて、 普通にオススメできる良い出来だったんじゃないかと思う。


あのガジェットが映像で!

人工筋肉によって生物のように駆動し自壊するイントルード・ポッドやFPSのゲーム画面のようなARの視点など、 原作を読んでいて「これ映像で観たら面白そうだな」と思っていたガジェットがしっかり違和感なく映像化されている。

現実と地続きな質感を持ちながらもどこか気味の悪さがあるあの感じ。 それらが主張しすぎるでもなく自然に物語に絡んでいて、ガジェット好きとしては非常に嬉しいポイントだった。

(世界観が共通する『ハーモニー』ではガジェットについてはちょっとツボを外したヴィジュアルのものが多くて、 「分かってねーなー」て感じだったんだよね)

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省略・改変された箇所

先に「かなり原作に沿っていて」と述べたように物語の大枠としては原作を丁寧になぞったものとなってはいるが、 それでもやはり映画の尺に合わせるために変わった部分もある。

大きく目立ったところでは母親のエピソードとエピローグが削られ、 またいくつかの箇所で分かりやすくするためか改変がなされていた。

とくに削られた箇所に関してはTwitter等で原作ファンと思しき不評を見かけたりもしたけれど、 僕にはかなり上手い削り方だったように思えた。


母親のエピソード/主人公クラヴィスのバックグラウンドの描写が無くなったことにより彼の特殊性が薄まったのだが、 それは「人間が調整され変質する」という物語性への没入感という意味ではむしろプラスに作用したのではないだろうか。

改めて原作をパラパラ読んでみると内省的な部分がかなり多かったことに気付き、 翻って映画ではそういった場面が無かったことを考えると、 そこは意図的に主人公の「透明化」が図られていたのではないかなと推測するところ。

そこから最後の台詞を鑑みると、 最近色々な作品を消化して得られた洞察、「人間は物語に規定されて生きるのは苦痛だが物語なしには生きられない」と何か繋がるものを感じた。

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そしてもっとも目につく批判がエピローグについてだけど、 読み直して確認しつつ述べさせてもらうと、厳密には「削られた」とはいえない。

ジョン・ポールの件の片付け方が原作と違うわけで、その時点ですでに明確にクラヴィスには「意思」があっての最後のあの流れなのだ。

その上で個人的な美観からいえば、 あれだけ「やったるで」な演出しといて具体的な「その後」の描写までしたらむしろクドくてダサいわけで、 僕は削って正解だったと思う。


世界第一の先進国であるアメリカの部隊が、その実、憎むべき後進国の野蛮な組織と本質的には同じことをしているという皮肉の部分は原作にも増して強調されていたように思う。

どんなにイデオロギーでコーティングしようとも、 薬学なり医学なりで痛覚を剥奪しようとも、 罪の意識が罰を求めてしまう。

クラヴィスの選択を僕は壮大な自傷行為なのだと解釈している。

このあたり、地球の反対側の安全圏からドローンを操作しながらもPTSDを患ってしまう兵士を描いた『ドローン・オブ・ウォー』を連想するところ。

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伊藤計劃氏が存命ならこの作品にどんな感想をもっただろうか。



そんなわけで本作について個人的にはかなり肯定的な印象を持っているし、 単純に映像的な山場も多いし話も分かりやすくて原作を知らない層がフラッと劇場で見ても十分に楽しめる作品になっているんじゃないかと思う。

心配だったのがバイオレンス描写をどこまで盛り込めるかというだったんだけど、 R-15区分ということもあってきっちり効果的に組み込まれていたしね。

制作のごたごたの影響か若干絵が不安定な箇所もあるにはあったけれど、 重要なカットについてはちゃんと良い絵になっており物語を楽しむことを阻害されるほどではなかった。

この辺は円盤化の際にもう少し良い感じにしてくれると良いなと願うところ。

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)