そんな今日この頃でして、、、

コード書いたり映画みたり。努力は苦手だから「楽しいこと」を探していきたい。

『フューリー』感想

「ヒューリー」じゃなくて「フューリー」なんですな。

本作の場合、大きな売りになっている対ティーガー戦車戦のエンタメ性と後述する重厚なテーマ性とが共存してるため、あまり明快な形での感想を残しにくいのが辛い所。

「戦車かっけー」「ティーガー強え」みたいな部分もあるにはあるが、本筋からすると、ね。

本作は連合国軍のシャーマン戦車フューリー号へと配属された補充兵の視点から、末期ドイツ戦線の一戦場を戦ったある一部隊の顛末を描いた物語。


「たった5人で、300人のドイツ軍に挑んだ男たち。」とか「戦争映画史に刻まれる迫力の戦車アクションと、胸を熱くする感動!」とかいった宣伝文句を見るとなんだか70年代のお気楽でヒロイックな作品みたいな印象を受けてしまう。

(あの年代の戦争映画といえば「悪辣なナチを倒す正義の解放者・連合国軍の活躍!」みたいなものが多い。)

だが、本作はどちらかといえば『プラトーン』や『フルメタルジャケット』に近い、戦場の悲惨さ無常さを描き出した映画だ。


戦争映画というのは割と好きなジャンル(邦画除く)なんだけど、意外と自軍戦車に焦点を当てた作品はあまり記憶にない。

登場するのはもっぱら敵方としてで、「圧倒的な火力と装甲を持った愚鈍な兵器」という文脈で、打ち倒すべき強大な敵として描かれがちな印象がある。

(もっとも実際は結構機敏なんだけどね↓)

総火演に行ってきたよー - そんな今日この頃でして、、、


敵歩兵からすれば「圧倒的な攻撃力と防御力を併せ持った恐るべき敵」であることは間違いないが、じゃあ戦車に乗ってる側が安泰かといえばそんなことはない。

林道に潜んだ歩兵を見逃し対戦車砲でも打ち込まれようものなら装甲内部に貫通して逃げる間もなく焼け死ぬことになるし、故障でもしようものなら狭い車内の中で心もとない弾薬とともに死が近づいてくるのを待つことになる。

このあたりの戦車の描かれ方はちょっと新鮮だった。

(思えばBF4の戦車なんかプレイしててもそんな感じの印象だし、意外と忠実なバランス感だったんだなーと思った。↓)

PS4 『バトルフィールド4』 クリアしたった - そんな今日この頃でして、、、



さて、本作で一つ特徴的なのが、意外とこの手の映画にしては「ナチスの悪辣さ」描写が薄いこと。

(後半ややあるんだけど、本作の作風からすれば余分だった気がするんだよな。)

その分逆に連合国軍側の兵士の粗暴さなんかが凄く描かれていて、ドイツ側の「ここで踏ん張らないとこんな奴らに好き放題されてしまう」というケツに火がついてる感が透けて見えるのが良かった。

そして主人公たちも決して「正義のため」とかそういう安っぽいことは言わない。

ヒューマニズムも大義も消え失せた戦場で、ただただ"激怒"に突き動かされてしまう男たちの悲しい物語なのだ。


戦争を始めたナチスが悪なのは間違いないとして、それではそれと戦う彼らは善といえるのか?

しかし、状況はそんな葛藤を許さない。

躊躇えば先に撃たれるような状況を前にした時、教条的な平和主義は力を持たない。

自分のため周囲の味方のため、戦場の理論に染まり人間性が失われていってしまう。

"一人前"となった補充兵への「マシン」という渾名は非常に示唆的である。



本作では宗教色が色濃いのも一つの面白いポイントだと思う。

途中に「ナチスは天国へ行けるか?」という話が出てくる。

キリスト教的な"救い"は平等であり彼らとて”正義の裁き”をなした後は天国へ行けるというような会話になっていたが、対比となるのが本編のラストの描写。

西洋では十字路は不浄な地とされ、そこに埋葬された犯罪者や自殺者は天国へ昇ることを許されず永遠に亡霊として彷徨うと言われる。

"英雄"となった彼の以後を暗示する演出なように思えてならない。



スクラップが並ぶ戦場跡や空を覆い尽くす爆撃機の飛行機雲のシーンは、本来は凄惨なはずなのにどこか神々しく見えてしまう。

それは、戦争という行為が、それを成そうとする技術と論理が「人の域」を超えてコントロールし得ない領域にまで達してしまったものに思えるからなのかもしれない。

我が国で戦争映画というと「説教臭さ」と「お涙頂戴」に塗れた"反戦"映画ばかりで辟易してしまうが、こういった形で平和へのメッセージを描くこともできるのである。

(ちょうど良いタイミングでそんなテーマの記事が上がっていた。一読の価値はあると思う。→なぜ戦争はセクシーで、平和はぼんやりしているのか――戦争とプロパガンダの間に / 伊勢崎賢治×伊藤剛 | SYNODOS -シノドス-

フューリー (角川文庫)

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それにしても、あっちの映画て結構ナチュラルに聖書の引用が出てくるし、向こうの一般教養程度には知っといた方が映画は楽しめそう。

口語訳聖書

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