- 作者: 吉上亮
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/05/24
- メディア: 文庫
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『楽園追放 Rewired』にあった前日譚にあたる短編「パンツァークラウン レイヴンズ」を読んで興味を持ち本作も読んでみたが、どうしてなかなか得るものの多い作品だったなと思う。
西暦2045年、未曾有の震災を経験し、情報化都市として再生した東京を舞台としたヒーローの物語。
「強化外骨格を纏う青年が主人公」というとなんだか日曜朝の特撮じみた子供向けの物語なように見えるが、それを功利主義とテロという現代的なテーマとして上手く昇華させている。
そしてIoTやARなどの現在進行形で発展してるテクノロジーの上にSNS的な想像力を展開した都市設計は見事の一言に尽きる。
積層現実都市イーヘブン
ネットに接続されたあらゆるモノが個人の行動履歴を集積し、高機能コンピュータco-HALがそれを処理して個人のコンタクトレンズへとVR投影を行い、市民に最適な行動を促す都市イーヘブン。
情報管理というと一見『1984年』のような強権的ディストピアのイメージが浮かぶが、本作の都市はそれとは異なる。
百万人に百万通りの楽園を与えるこの都市のあり方は、どちらかといえば『すばらしい新世界』の方に近いように思える。
あらゆるテクノロジーには危険性が伴うが、それがもたらす効用が上回れば社会的に許容されうる。
現代的価値観からすると一見受け入れがたくとも、十分に説得力ある効用があるならば、そこにはリアリティが生まれる。
僕が『PSYCHO-PASS』シリーズにいまいち乗り切れなかったのはこの辺りが乏しかったからに他ならないのだが、本作はそのあたりが実に上手く描写されている印象を受けた。
この都市で集積された行動履歴は、個人の人生にとって最適な道を提示する。
出会うべき物事と出会わせ、出会うべきでない物事から遠ざける。
あくまで強制するのではなく、それと気付かれないように選択肢を狭めて個人の行動を制御するのだ。
このあたりの発想はさながらECサイトの個々のユーザへの最適化を思わせる。
個人の行動履歴からの誘導がさながら運命論のように機能するという発想は『ウェブ社会の思想』の内容を彷彿とさせられた。
ウェブ社会の思想 〈遍在する私〉をどう生きるか (NHKブックス)
- 作者: 鈴木謙介
- 出版社/メーカー: NHK出版
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- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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さて、選択を機械に行わせるには、それを一意に数値化するための「評価基準」が必要となる。
旧来的なディストピアであればここに人間が介在したりAIの独断があったりするところだが、ここが本作の現代的なところ。
Facebookのような個人間の相互評価をGoogleのページランクのようなアルゴリズムにより公平な神として個人を評価しつつ、同時にそこに現れる市民の意識の総和によって「街の総意」を形作る。
このあたりの発想は『一般意志2.0』を思わせる。
(最近だと「いやいやそれは一般的な人間の感覚として受け入れがたいでしょう」な言動もちょいちょいみられる東さんだけど、理屈の積み上げ方みたいなところにはやはり凄みがある。皮肉な話だけど、この本の内容は正にそういう「一般的な人間の感覚」をいかに反映していくかみたいな所がキーだったりする。)
集団としての意思決定において、重み付けはあれど特定の個人に依存することはない、民主主義を極限まで推し進めた形の社会の想像力として興味深かった。
社会の意思と英雄
本作のもう一つのキーが「英雄」というキーワード。
Wikipediaの記述を引くと、英雄=ヒーローとは普通の人を超える力・知識・技術を持ち、それらを用いて一般社会にとって有益とされる行為、いわゆる救世主としての行為を行う者とされる。
個の質を量が凌駕した近代においては常人の域を超える力を持つ者という意味での「英雄」はファンタジーになった。
その一方で、民衆の意思が可視化されるようになった現代においては、後半の一般社会にとって有益とされる行為すなわち社会の意思の体現者としての意味付けが強くなってくる。
彼の成す行為の正当性を担保するのが社会の意思であるとして、それではその意志を絶対のものとして良いのか。
全体と相容れない意思は悪と定義できるのか。一個人の感覚とは相容れない意思が示されたときどうするか。
どうもこの本を読みはじめて以来、この視点で物語を見るクセがついてしまった気がする。
一作品としてみるとアクションの描写が読みにくく感じたし、民衆をあまりにも顔のない存在として動かしすぎていたり、終盤の取ってつけたような「良い話」ラッシュには白けたりと、必ずしもパーフェクトな出来であるとは思わない。
そして全体的に「批評性ある」作品というよりは「批評性ありきで要素を詰め込んだ」あざとい作品という印象を受けてしまった。
だが、それでもこれだけのテーマ性を一つの物語として落とし込んだ技量には感服せざるを得ない。
物語を読む楽しみというのは、キャラクターの思考や作品の世界をエミュレートし新しい考え方を取り入れることだと思う。
そういった意味において、非常に得るものの多い作品だった。
こう「英雄という役割」と「人間性」との相反みたいなことについて考えていると、Fateってなかなか先見性あったんじゃないかって気がしないでもない。
Fate/stay night [Realta Nua] PlayStation Vita the Best - PS Vita
- 出版社/メーカー: 角川ゲームス
- 発売日: 2014/09/18
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どうにも奈須きのこ作品て文体といいキャラといい何か苦手なんで全くもって知識は無いのだが、しかしあれだけ売れているからには見るべき所があるに違いない。