ライトな語り口ながら「情報と身体性」のサイバーパンク的な想像力に唸らせられるものがあった。
- 作者: 野崎まど
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/09/30
- メディア: Kindle版
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本作は電子葉というネット接続可能な補助脳が普及した未来の京都が舞台。
道具立てとしては攻殻機動隊の電脳と同種であるが、あちらに比べるとより実生活に近いところの描写が多いのが興味深い。
「知っている」と「調べられる」が等価となる時
インターネットの普及によって何が変わったか?
様々な切り口で語ることはできるが、一般生活に近いところでは「利用できる情報が格段に増えた」と表現できると思う。
外部媒体から情報を引き出すコストの減少。
知識を「情報を利用する能力」であると定義するならば、その意味が記憶力から検索力へと置き換わっていく時代。
PCからスマホへとより身体との親和性が高い機器になるほどに、「知っている」ことと「調べられる」ことの意味が近づいていく。
それが身体と同一化した補助脳であれば、なおさらその傾向は強まるだろう。
だがそれと同時に、経済格差や技術リテラシーによる格差が新たに生じることになる。
一時記憶領域が拡張できればどれだけ思考の幅を広げられるだろうか。
計算を電子化して高速化できればどれだけ高度にものごとを考えられるだろうか。
そして、ネットに常時接続できるようになれば人の思考形態自体がどのように変化するだろうか。
冒頭にも述べたが、本作ではこのあたりの身体性の捉え方にかなり感銘を受けた。
あえて不満というか不足に感じた点を挙げるならば、 本作でも示唆されていた「完全に障壁が取り払われたネットとそこに接続された人々」についての描写が無いことだろうか。
神の視点を手に入れ、あらゆる「正解」が提示される生活において、人は人でいられるのだろうか?
そこで人は多様性を保つことができるのだろうか?
この辺りのテーマについて考えていると、そこはかとなく『ハーモニー』が頭をよぎるところではある。
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/12/08
- メディア: 文庫
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