去年から楽しみだった本作。
原作も読んで物語として好みなのは分かっていたのだが、 行きつけの映画館が4DXスクリーンを導入したということで、 せっかくなので4DXで鑑賞してみた。
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火星の風景
『ゼロ・グラビティ』『インターステラー』とここ二三年リアル系(という表現が適切かは微妙だが)宇宙ものの当たりが続いて見慣れたせいもあり、 また本作は画的な意味でスペクタクル感ある場面は少ないこともあって、 正直なところ映像的な惹きには乏しい。
(おそらく制作側もそういった意識があってか、例えば火星の重力あたりなんかは映像的に表現されていない。)
だが、本作にはそれを補って余りある「状況」の面白さがある。
ハブやローバーといった窮屈な生存圏と、それを強調する記録カメラからの映像の雰囲気。
特に一度破壊されてしまったハブをシートで補強した後の、嵐に吹きつけられたシートの音の恐怖感は良かった!
原作でのマークの不安なんかが臨場感たっぷりに伝わってきた。
また、マークの生存が確認されてからの地球側の個性豊かな人員も、映像によってより印象付けられた感がある。
JPLチームの実験室感には工学畑の人間としてグッと来るものがあったし、 起動計算をおこなうエンジニアの奇天烈さの表現もなかなか良かった。
「 ポジティブ」という能力
本作はかなりの部分が原作準拠なので感想も以前に書いたものをなぞるような感じになってしまうが、 マークの人を憎まずどんな状況でもユーモアを忘れない人間性と、 方法を冷静に論理的に検討していく姿勢には惹かれるものがある。
そういったポジティブさが、絶望的な状況の中での僅かな糸口をつかむ力となっていくのだ。
僕自身はどちらかといえばネガティブ寄りの人間だという認識があり、 振り返ればそれ故に掴み損ねたチャンスも少なからずあった気もするわけで、 このあたりは大いに見習うべきものがあるなと思ったりする。
削られたところ
映画では尺の問題もあり、また娯楽映画として単純化する意図もあってか、 色々な部分が削られている。
大きいところではマークのモノローグ的な表現が控えられており、 科学的ウンチクや緻密な計算の部分が削られてしまったのが残念なところ。
彼の「優秀さ」というのは最初から答えを知っているチート的なものではなく、 持ち得た知識をフル活用し試行錯誤を行えるバイタリティの部分だと思うのだが、 そのあたりが表現としては弱いかなという気がする。
どんなに賢くても間違えるし見落としもするが、失敗の原因を探り、解決法を導き出して着実に足がかりを掴んでいく。
原作ではそんな描写が面白かったのだが、本作ではいささか一直線な印象となってしまっている。
導入部からかなり駆け足であり、 生きている通信設備がないということとか次のアレス4まで持ちこたえればという目論見に行き着くまでのあたりとかの説明が乏しく、 このへん原作未読の層にうまく伝わるのかなという不安感はあった。
シークエンスとしても、じゃがいも栽培に際して「土」をまず育てなければいけないという部分が無くなってしまったせいで、 ハブが吹っ飛んだ際になぜもう一度栽培をしないのかという部分が映画だけだと伝わらないように思う。
また、MAVを目指すあたりでの一騒動(どころではない)のスリリングさが無くなってしまったのは勿体無い。
人の描写というところでいえば、地球の偉い人サイドの葛藤や打算があまり描かれておらず、 群像劇としての魅力が目減りしてしまっているのも気にかかるところ。
その要素が弱くなったせいか、個人的に大好きだった原作最後のくだりが丸々べつのものに置き換えられ、 単なる「宇宙でサバイバルしたすごい人の物語」になってしまっているのが残念ではある。
映画を観て面白いと思った人は、ぜひとも原作を読んでこのへんを補完して欲しい。
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4DX
今回はじめて4DXというものを体験したのだけれど、 これはもはやアトラクションですな。
映像の迫力も手伝って、「え、これ固定具無くて大丈夫なの!?」と不安になるくらいの臨場感ある体験ができた。
一方で、ただでさえ3Dメガネonメガネ状態で収まりが悪いところに動きあり水しぶきありで、 二時間も見続けていると終わった頃には軽く気持ちが悪くはなってしまった。
3,000円強という一時の娯楽としてはお高い値付けもあってか、 ある程度は面白いと確信が持てる集中力が持続する作品でないと厳しいかなという印象。
とはいえ、「映画」という体験を補強する手法としてはすごく面白いので、 手堅いタイトルだったら今後も4DXで観てみたいかなという感想。
次は↓みたいなのを買ってトライしようかと画策中。
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原作がすごく好きな身とすると、映像として見られた喜びはありつつも、やはりダイジェスト的な構成による魅力の目減りは否めない。
悪くはないがもっと上手くやれたんじゃないかなと思ってしまう箇所がいくつかあったのが正直なところ。
それこそ何クールかのドラマみたいなフォーマットでやると面白い話だったと思うのだけれど。