そんな今日この頃でして、、、

コード書いたり映画みたり。努力は苦手だから「楽しいこと」を探していきたい。

映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転(原題:The Big Short)』感想

ノリの良いテンポに溢れる知的興奮!でもカタルシスは無い。

本作は日本でも「リーマン・ショック」としてお馴染みの2008年のサブプライムローン問題に端を発した世界的な金融危機において、 空売りによって儲けを出した四者を描いた作品。


黄色背景のポスターに「大逆転」というサブタイトルからは、 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のようなアッパーな作品を想像させられる。

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確かに軽快でセンス抜群のBGMにドラマの途中に一時停止でキャラクターに専門用語を解説させる演出など、 気分がアガるような作りにはなっている。

だが、「市場の裏をかいて大儲け、ヤッター」みたいなお気楽な作風ではない。


かつて銀行は住宅ローンを担保とするモゲージ債を発明した。

当初は信用度の高い住宅ローンのみを対象とした手堅い金融商品として扱われていたが、 広がっていく市場の需要にしたがって次第に信用度の低い低所得者向けの住宅ローン、 いわゆるサブプライムローンが組み込まれるようになる。

そうなれば当然それに連動して金融商品としての信用度も低下するはずなのだが、 銀行はその実態を商品の複雑さに隠蔽し、 あたかも信用度が高い安全な商品であるかのように喧伝して商売を続けた。

そして格付け機関も政府もそれを見過ごした。

そんな中、本作の登場人物たちはその金融業界の欺瞞と崩壊の予兆に気付き、 大きな賭けに出たのだった。

このあたりの感じは『ゼロ・トゥ・ワン』の「成功するためには自分だけの真実を見つけろ」の下りを連想した。

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本作の原題にもあるショート=空売りとは、 金融商品を借り受けた上で売って現金化し、 将来同じ個数の金融商品を買い戻して返却してその差額を儲ける手法である。

つまりは金融商品の値下がりが見込める際にとられる戦略である。

だが、借りる以上は貸す側の利潤として保証金が生じるため、 値下がりしなくては損失となってしまう。

当時は皆がみんな、それこそFRB議長までもがお墨付きを与えた手堅い(と思われる)商品に空売りを仕掛けるというのは、 相当に常識はずれな行為だったのだ。


金融を題材とした映画というと古くは『ウォール街』など名作も多くあるところだが、 それらがドラマとしての演出で専門的な部分が分からなくても楽しめるようにしていたのに比べると、 本作は専門用語がかなりたくさん出る、それなりに予備知識を要する作品となっている。

ウォール街 (字幕版)

ウォール街 (字幕版)

かくいう僕だってそんなにちゃんと理解できていたわけではなくて、 恥ずかしながらCDSCDOがどっちがどっちか混乱してしまったし、 結構な部分で雰囲気から読んでなんとなく理解するという感じになっていた。


さて、そんな本作ではあるが、金融を扱った作品につきもののカタルシスとは程遠い。

サブタイトルに「華麗なる大逆転」とあるが、彼らは別に逆転したわけではない。

欺瞞に気付き、緻密に計算して、いつか来ると信じた崩壊の時をひたすら待っていたのだ。


そしてマークやベンが言うように彼らの「勝利」の裏では、 「神話」の崩壊による不況が起こり、 多くの人々が職や住む家を失い、生活が破壊されてしまったのだ。

だが、その大いなる欺瞞を働いた銀行や格付け機関、あるいは政府に対する裁きは十分だったのだろうか?

そういったメッセージとともに、どこか陰鬱な余韻を残して本作は終幕となる。


起こるべくして起こった悲劇と、それを見ぬいても正すでも防ぐでもなく、ただ待ちの一手の登場人物たちという構図。

そんなわけで本作は正直なところ物語としての据わりはあまり良くない。

だが、演出が上手くて飽きさせないし、俳優のノリノリの演技にも惹きつけられるものがあった。

なにより見ていてかなり知的興奮を得られると思う。

ある種の時代性をもった教養としておさえておくことをお勧めしたい一本である。

世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫)

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