齢が三十にも差し掛かってくると、 否が応でも「目先のタスク」よりも先の場所に目を向けなければいけない。
ITエンジニアという職能に即して言えば、 単なる実装だけではなくてその後に控える運用や保守や、 あるいはもっと先の経営においてその仕事にどう価値を見出せるかみたいなところを考えたりもする。
別に「経営者目線を持て」的な意識高い話ではない。
生活の安定のためには企業には持続可能性を維持してもらわなければ困るし(まあ期待できなければ転職するけど)、 年齢なりに成果も求められる以上は働きによって有用性を証明し続けなければならない。
一方で「なんでもがむしゃらに」が実を結ぶほど現実は甘くはないので、 どこで何をするのが最も効果的か、そこで自分はどんなポジションを取るのが良いか、 そういうことが気になったりするのだ。
さて、前置きが長くなったが、今回読んだのは企業におけるITのあり方を物語調に描いた『The DevOps』。
- 作者: ジーンキム,ケビンベア,ジョージスパッフォード
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2014/08/12
- メディア: Kindle版
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タイトルの「DevOps」という単語はしばしばCIやInfrastructure As Codeの文脈で用いられるので、 何か特定の技術的な手法のことのようにも見えてしまう。(かくいう僕も誤解していた)
だが、本作によるならばDevOpsとはいわば組織のスタイルのことなのだ。
本作では自動車部品メーカーのパーツ・アンリミテッド社におけるIT部門の奮闘を通して、 DevOpsとは何かということが描かれる。
単なる「作業」を省力化して価値を生む「仕事」に注力できるようにする、それがDevOpsの真意である。
だがそれは単なるツールの導入のみによって成し遂げられることではない。
DevOpsの発想を理解し、そこにエンジニアリングの外側を含めた組織のあり方を適応させていく必要がある。
この21世紀において、IT技術はもはや単なる道具ではない。
計算尺やワープロの延長などではなく、 (望むと望まなかろうと既に)ITネットワークを土台としてありとあらゆる企業活動が動いているのだ。
ITを単なる面倒事やコストとするのではなく、 積極的にそれに適応していくことが企業の競争力の向上につながる。
そして、ITの運用も「社内雑用の一部門」であってはならない。
企業のビジネスと密接に連携して改善していくべきものなのだ。
(ITへの認識という意味では最近話題になっていたこの記事を思い出した。 情科若会2016公開用 )
継続的インテグレーション(CI)や継続的デリバリー(CD)、そしてInfrastracture As Codeは、個別の技術ファッションではなく、真に価値のある仕事に注力するための方法論なのだ。
単純に技術だけ導入しようとしても、 それまでの運用体制との齟齬によって価値を発揮できないばかりか、 かえってコストとなってしまうこともあり得る。
真価を発揮させるためにはエンジニアリングの外側とも連携しながら、 デプロイにおける技術の外側の「仕事の形」をも変えていく必要がある。
地の文章のせいか翻訳の問題か正直なところ冗長さや読みにくさを感じてしまう箇所もあったが、 内容としては非常に興味深かった。
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海外と比べ日本の企業はITをSIerに丸投げしがちだとか、 あるはニュースで耳にする金融システム系のゴタゴタなんかを振り返ると、 ジャンルは異なるとはいえITまわりを飯の種としてる職業人としては暗澹たる気持ちになってしまう。
そしてそんな状況をみれば、能力ある若者がそこにアサインしたくなくなり、 人材不足に陥るのも当然の帰結だ。
身の丈にあわぬ感慨ではあるけど、 どうにもこの国の行く末みたいなものには大いに不安を覚えてしまう。
僕自身のポジショントーク的な側面はあるけど、 もっとITエンジニアはもっとビジネスの中心近くに赴かなければいけないと思うのだ。