人はなにをもって「大人」になるのだろうか。
30代に差し掛かったせいか、あるいは成人式の季節だからだろうか、 ふとそんなことを考える。
義務教育を終える、タバコを吸えるようになる、酒を飲めるようになる、選挙権を得る、就職をする・・・
様々に社会的な区切りはつけられているけれど、その時々で綺麗さっぱり切り替わったようなイメージはない。
だが、振り返ってみれば確かに今の自分のメンタリティは10代の頃のそれとは明らかに違うナニモノかに変質してしまっている。
- 作者:神林 長平
- 発売日: 1986/07/01
- メディア: 文庫
さて、今回読んだ『七胴落とし』はそんな大人と子供との境界が明確に存在する世界を描いた小説である。
子供は感能力を持ち、子供同士でしか通じない念話をし、時にその力で傷つけあう。
だがその力はいつしか失われ、そして自分自身にそれがあったことすら忘れてしまう。
子供の狭い世界観や無闇な万能感のメタファーとして超能力を用いているのだ。
タイトルでもある『七胴落とし』とは主人公の家に伝わる日本刀の名である。
罪人の死体を重ね、何体を切ることができるのかを試し切りし、その数をもって等級とする。
優れた力を持つものは、それを試さずにはいられない。
そんな具現として物語に関わってくる。
物語全体として見ると、味わいは『ぼくらは都市を愛していた』と近いものなように感じた。
不思議な世界、官能的な描写、そして孤独感。
あちらが「大人から見た世界」であることと対称であるのかもしれない。
物語として読むと個人的には今ひとつまとまりに欠ける、終わり方もおざなりなもののように思えた。
だが、端々のメタファーには確かに自分の中にもかつてあったモノの喪失感を思い出させられるような鋭さも感じられる。
読書体験としてなんとも不思議な一冊だった。