『バーナード嬢曰く。』でもネタになっていたけど、いやー、評判通りの難解さだった。
- 作者: グレッグ・イーガン,山岸真
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/09/22
- メディア: 文庫
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冒頭からして、電子的なデータある精神胚が人格を獲得し一市民(本作の語り部であるヤチマ)として「誕生」する場面から始まるのだから飛ばしている。
30世紀において人類の一部は人格を電子化して住処を軌道上の衛星のサーバに移し、ポリスと呼ばれる社会を築いていた。電子化された生物ということで個人の識別も時間・空間の認識も、そして生殖形態だって肉体をもっていた頃の人類とは全く異なる。
いわば『順列都市』で示された電子世界の延長ではあるのだが、それが大層な説明もなくサラッと描写されるのだからSF慣れしない人間は一気に振り落とされかねない。
そしてもちろんポリス以外の「人類」もいるわけで、人格を電子化しつつもハードウェアによってあくまで物理世界に身を置くことを重んじるグレイズナーや、生身の身体で生活する肉体人なんかが存在している。また、肉体人の中にも旧来的な人類の形質にこだわる者もいれば遺伝的改良により生活圏を拡大させた者もいるし、反対にあえて退化し動物化することを選んだ者もいる。人類はもはや種として分化しているといっても過言では無い。
だが、それほどまでに高度に発達した人類も宇宙規模の災害の前には無力だった。遠くトカゲ座のガンマ線バーストは地球上の肉体人をあっけなく滅ぼしてしまった。またいつ起こるとも知れないその災害を前に、残されたポリス人類はその現象の究明と対処を知る知的生命体を求め、広大な宇宙を探索するディアスポラ計画を実行に移した。
「惑星レベルの危機に、人類を救う術を求めて宇宙を冒険」という筋には『インターステラー』を彷彿とさせられる。
ただ、この冒険も電子化された人類ならではの方法として、ある時点での人格をコピーし拡散させるという形態なのが面白い。それ故「エクソダス」ではなく「ディアスポラ」なのだ。また、終盤にかけて次元の壁を越え想像を超えた異種知性と出会い・・・といった加速度には『アッチェレランド』とも近いものを感じた。
虚実おりまぜた理論が展開され、端々で既存人類の概念の壁を打ち崩していく想像力の爆発加減。ある程度のSF教養や「分からないことを分からないなりに楽しむ」力が要求されるので万人にお勧めとはいかないが、そのあたりに楽しさを見いだせるタイプなら引っかかり所が沢山あるので是非とも挑戦してもらいたい作品である。
- 作者: グレッグ・イーガン,山岸真
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