結構前から評判は知ってて積んでいたんだけど、今度映画が公開されるので、不用意にネタバレを踏んでしまうリスクを避けるために慌てて読んでみたらめちゃめちゃ面白かった!
前々作の『火星の人』は降りかかる災難にどうロジカルに対処法を組み立てるかというところが面白みだったので展開のネタバレがあったところでそこまで魅力は損なわれない印象だけど、本作に関しては「地球の危機をいかにして救うか」という未来方向への冒険と「自分は何者で、なぜ地球から遠く離れた場所にいるのか」という過去方向への謎解きが並行して進んでいき、そのページを追うごとに次々驚きの展開が訪れるのが醍醐味だったりするので未読の方は事前情報を入れずに読まれることを強くおすすめしたい。
ということで以下ネタバレ注意。
いかに地球を滅亡させるか?
SFでは古今東西さまざまな手段で地球を滅亡させるシナリオが描かれてきていて、本作も大別すれば良くあるタイプの気候変動系ではあるが、その原因としてエネルギーを食べる宇宙微生物アストロファージを設定したのが秀逸である。
こいつが地球環境を壊滅に追い込もうとしている災厄の原因でありながら、一方でその性質によって現状の地球文明では不可能な恒星間航行といった無茶を実現する手段にもなっている。
言ってしまえばガンダムにおけるミノフスキー粒子のようなリアリティーを担保しながらSFとしての世界観を成り立たせるためのハッタリなわけだが、本作のアストロファージでは「そりゃあエネルギーを食うからには吐き出しもするわな」とか納得感があって最小限の設定で物語を成り立たせるスマートさにSF作品としての美意識を感じるんですなあ。
プロフェッショナルの仕事
『火星の人』と同様に様々なプロフェッショナルな人物が登場して時にぶつかり合いながらも解決へ向かっていく描写が魅力であるが、ことに本作では相対するのが「地球の滅亡」だけあってスケールが大きくぶっ飛んだものになっている。
使命感ゆえにとんでもないスケール感のプロジェクトを強引に冷徹に推し進めていくストラットや半ばマッドサイエンティスト然としたスピンエンジンを開発するディミトリ博士など一癖も二癖もある人物たちが尋常ならざるプロジェクトを進めていく様が面白い。
個人的に一番グッと来たのは上巻ラストの展開で、気難しい気候学の老博士ルクレールが泣きながら南極の氷を核で溶かすシークエンスだったりする。(読んでないと本当に意味不明な一文だな・・・)
生態系に致命的な影響を与えてしまうことを誰よりも理解しており、環境活動家でもあった自身の主義・これまでの人生を否定するような行為でありながら、それでも自分の立場・責任と向き合い地球の延命のために実行する重み・・・ 「曲がることができる」強さにこそ、プロのあるべき姿を見た気がするのだ。
主人公のスペクタクルあふれる冒険もめちゃくちゃ面白いんだけど、その背景の部分でのドラマに凄く刺さるものがあった。
総論
「アストロファージによる地球の環境変動の危機」「大宇宙一人ぼっち」までは事前にうっすら把握していたのだけど、いやはやまさかファーストコンタクトものに展開していくとは・・・!(出遅れてた割にこの驚きをちゃんと味わえたのは幸運だった)
『火星の人』の徹底した考証を積み重ねていく作風からするといくらか飛び遠具が多いようには感じられて意外だったものの、コアの部分には「科学へのリスペクト」「前向きであることの大事さ」「協力することの尊さ」は共通していて、これまた夢中になって読み進めてしまった。
未知の困難に立ち向かうには、単に「知識がある」だけではなく事象を観察して検証する科学的態度が物事を前に進めていく力になるし、そこには精神的な粘り強さと、そして自分だけでは出来ないことを実現するための協調性が必要なのだ。 このへんは社会人としてチームで仕事をしていると多かれ少なかれ共感してしまうところである。
それに加えてITエンジニアリング界隈にいる人間としては、コンピューター上でスプレッドシートとちょっとしたスクリプトで即席で作った翻訳システムがキーアイテムになるところがアツかった。 こうやって人間の能力を拡張して不可能を可能にしていくのがITシステムの醍醐味だよなあ。
本作も映画が公開されたらぜひ観に行きたいし、『アルテミス』も気になってくるところではある。

