国家の影響力が弱まり、企業やマフィアが分割統治する近未来。 かつて凄腕のメタバース・ハッカーだったが今はピザ配達人をしているヒロとハイテクスケボーを駆る特急便屋の少女Y・Tは、電子ドラッグ「スノウ・クラッシュ」を巡る陰謀に巻き込まれていく。
「メタバースの祖」という触れ込みの印象に反して、物語としては現実世界側でのアクションが主軸となる。
サイボーグ番犬や車と融合した男などのSF的アイディアに満ち溢れており、特に後半に登場する秘書AIであるライブラリアンの描写には近年のLLMエージェントを連想させられた。
また、物語の核心部分に古代シュメール文明の神話をモチーフとした言語SF的な要素が関わってくることが個人的にはツボだった。
思えば「人の思考を操る祖語」というアイディアには『虐殺器官』における「虐殺の文法」に通ずるものがある。
そんなわけで個別の要素は鮮烈なのだが、一方で物語全体としてみるといささかとっ散らかっている印象は拭えない。
個々の展開につながりが見いだせなかったり、後から考えて必要性があやしいキャラクターも多々いたり・・・
ともあれ、記念碑的な作品として押さえておく価値のある作品だと思う。
