そんな今日この頃でして、、、

コード書いたり映画みたり。努力は苦手だから「楽しいこと」を探していきたい。

『おうむの夢と繰り人形』感想

おうむの夢と操り人形 (Kindle Single)

おうむの夢と操り人形 (Kindle Single)

 シェアハウスに住むエンジニアの山科とコンサルタントの飛美は、中古のコンパニオン用の人型ロボット「パドル」を引き取る。非力で実務的なことは何一つできない代物だったが、ソフトウェアをいじり遊ぶうちに二人はある活用法を思いつく。彼らの目論見は的中し事業化に成功するのだが・・・


 現代的なガジェットやテクノロジーを活かすのが上手い著者らしく、ソフトバンクのPepperを思わせるロボットや昨年あたりちょっとだけブームだったチャットボットが題材。ここで並の作者なら荒唐無稽な人工知能なんかを登場させてしまって白けてしまいそうなところを、現実的なルールベースで応答するいわゆる人工無能を選択するあたりは流石である。

 人は「人らしく見えるもの」に対して半ば自動的に感情移入してしまい、少なからずガードが下がる。『エクスマキナ』なんかで描かれているが、本能に刻まれたある種の脆弱性といえるかもしれない。それ故に「人っぽさがありつつも明らかに人間ではない」というデザインのさじ加減は重要なのだ。

blue1st.hateblo.jp

 本作では人類そっくりのロボティクスなんか実現しないしソフトウェアに魂が宿りもしない。だが、その逆方向から「人の価値」が揺るがせられる。人類を凌駕する人工知能ならいざ知らず、単純なルールに従って受け答えするだけの人工無能が自分を代替できてしまった時、魂の神秘性・自分の揺るがぬ価値だと信じていた何物かが霧散してしまう。そこにある種の哀愁を感じてしまうのは致し方ないことだろう。


 そんなわけで題材としては面白いところを突いているなとは感じるものの、一方で本来SF的に盛り上がりどころになるであろう「代替」部分は回想として語られるだけだったりと一小説作品としてはいささか盛り上がりに欠けるように思えた。

 また、その結論のもって行き方も納得感はあるものの、『Gene Mapper』の作者であることを考えるとあまりにも普通で面白みに欠ける。もうひとつひねりが欲しかったような。

おうむの夢と操り人形 (Kindle Single)

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