キルラキルの着想元としてもお馴染み『カエアンの聖衣』を読んでみたんだけど、奇抜な着想からの後半の加速度的に広がっていく世界観は抜群に面白かった!
- 作者: バリントン・J・ベイリー,大森望
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/03/24
- メディア: 文庫
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人類がその生存の地を銀河中に広げたはるか未来。文明は大きくザイオード星団とカエアン文明圏との2つに別れていた。ザイオード人はカエアンの衣装絶対主義に非人間的さと敵対意識を感じつつ、その卓越した美への抗えぬ魅力も感じていた。
服飾家ペデル・フォーバースは「実業家」リアトル・マストに唆され、難破したカエアンの貿易船から衣装を引き上げる仕事を共にする。その中で、ペデルは一着のスーツに魅入られる。
一方、文明圏の境界では文化人類学者アマラ・コール率いるカラン号は来るべき文明の衝突に備え、カエアンについて調査を行っていた。奇妙なまでに衣装に執着する文化は一体どこから生じたのだろうか。
音を武器とする惑星の生態系や自らの姿を変容させた人類など、物語の本筋から脇道までとにかく着想の豊かさには驚かされる。
特に日露戦争を引きずったまま宇宙の片隅で独自に進化した2つの部族の描写が面白い。片や自らの肉体を改造し宇宙へと適応した日本人の末裔、片や生まれた時から小型宇宙船に収まり、それを己の身体として認識するロシア人の末裔。そんな変容した身体性における自意識への想像力!彼らの視点から見ると我々のような人類種が奇妙に見えるのだ。
日本人としてはヤクーサ・ボンズ(ヤクザ坊主)など、微妙に怪しい日本観がニンジャスレイヤーめいていて楽しい。
キルラキルの着想元ということからも分かるように本作のコアとなるアイディアは衣装が人を操ることである。
衣装が着る者の意識を変化させ見る者に影響を与えるあたりは、(恥ずかしながら実体験だが)大学生あたりの他人と服を見比べて優越感に浸ったり勝手に卑屈になったりする自意識の延長のようで妙にリアリティが感じられた。この伊藤計劃作品ばりの自身の意思が変性させられる描写なんかも巧みなのだ。
改めて思い返すとラストの持って行き方なんかも通ずるところがあり、なるほど好みなはずだと納得。
中盤からの調査団によるカエアン文明の謎を解き明かしていくパートは『星を継ぐもの』のような空想考古学となっている。突飛なワンアイディア作品かと思いきやかなり綿密にその成り立ちが設定されており、登場人物たちがピースを拾い集めてアカデミックに解き明かしていく描写は理系として惹かれるものがある。
特に終盤の2/3以降の「人類を揺るがす真実」が明らかになっていく展開はスリリングで、予定していたよりもかなり長風呂してまで一気に読み切ってしまった。
そんなこんなで様々な要素を内包しつつ加速的に物語のスケールが拡大していくものだから、読んでいてとにかく退屈することの無い作品だった。なるほど、これが「ワイドスクリーン・バロック」か。
- 作者: バリントン・J・ベイリー,大森望
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/03/24
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