そんな今日この頃でして、、、

コード書いたり映画みたり。努力は苦手だから「楽しいこと」を探していきたい。

『伊藤計劃トリビュート』感想

「伊藤計劃」の文字を紙面で見かける機会も増え、 来月からは映画が三本連続公開とすっかり一大キャンペーンといった様相の今日この頃。

「わずか数作を出版したのみで早逝」「作品自体が『死』に密接なテーマ性」と作家性自体がドラマチックで否が応でも目を引くわけだが、 そこに人の死の商業利用の匂いがして少し心に引っかかりを感じたりもする。(まだ十年も経ってないんだよな・・・)

有り体な「死者は安らかに眠らせてやれ」という思いと「作家として本望だろう」という思いの両方が同時に浮かぶところではあるが、 別に僕が実際の氏を知っているわけでもなし、勝手に思いやってみたところで何の意味もないのだろう。

いずれにしろ死者に遺志はあれど意思はないし、そもそも遺志だって解釈次第なわけで、 僕ら一SFファンとしては現象としての「伊藤計劃」をただただ楽しむより他にない。


伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA)

伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 王城夕紀,柴田勝家,仁木稔,長谷敏司,伴名練,藤井太洋,伏見完,吉上亮,早川書房編集部
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/08/21
  • メディア: 文庫
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さて本作は氏がテーマとしていた「テクノロジーが人間をどう変えていくか」という題材に寄せて氏に影響を受けた作家たちが書いた短篇集となっている。

氏の作品のオマージュとなっているものもあればテーマ性が近いだけで特に「寄せた」わけではないものも含まれているが、 どれも氏の作品のファンであれば楽しめるものなのではないかと思う。

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『屍者の帝国』読んだよー

不評なレビューばかり見かけたのでちょっと躊躇してたのだけど、読んでみたら中々おもしろかった。

遺稿を引き継ぎ完成させた物語

本作は、2009年に癌で逝去したSF作家 伊藤計劃が冒頭だけ記して遺した原稿を、友人である円城塔氏が引き継いで完成させた作品である。

そういう作品外の「物語」に商業的なあざとさを感じて忌避してた面があったし、また文体の合わなさによる不評を目にしていたこともあって手に取れずにいたのだが、出版されている伊藤計劃氏の作品は全て読んでしまったし、Kindle版で割引があったこともあり思い切って買ってみた。

死者を使役する世界

本作の舞台は19世紀末。

現実でもあった蒸気機関による産業革命の後、死体にネクロウェアをインストールし「屍者」として使役する技術が出現した架空の世界が舞台。

国家の序列を決定づける主要素が「海図と造船」から「蒸気と情報と"屍者"」へと移り変わり、その中で勢力を伸ばさんと各国の思惑が入り乱れる時代。

屍者は労働力や兵力として社会を支える、国家の運営と発展に欠かすことのできない存在となっていた。

大学で屍者の製造技術を学んでいた主人公ワトソンは英国の諜報機関にスカウトされ、「ある任務」に就くことになるのだが・・・

合作ということ、文体について

小説というのは作家の脳内にある世界を文章という形にエンコードして出力されたもので、読者はそれをデコードして脳内に世界をつくり上げるものである。

当然その情報の伝達過程で劣化や変質は生じるものであり、それ故に複数人の作家がひとつの作品を作るとなるとキャラクターや世界観に整合性があるかといった面が気になるところであるが、その部分については心配は杞憂であった。

以前見たレビューにあったように、「伊藤計劃氏の作品」という感覚で読めば文体として読み難いと感じる部分はあったが、しかし言われなければどこからが引き継がれた部分であるか分からない程度に「ひとつの作品」として成立しているように感じた。

(逆説的に、伊藤計劃氏の作品って「読みやすい」ことが大きな魅力だったんだなぁと気付かされた)

少なくとも「逝去した作家の原稿を友人が引き継いで書き上げた」というドラマ性に胡座をかいた適当な作品ではないように思った。

言語・意思・物語

伊藤計劃氏の著作では、『虐殺器官』で言語が、『ハーモニー』では人の意思がキーになっていたのだが、本作でもそれらの継承を垣間見ることができる。

虐殺器官 ハヤカワ文庫JA

虐殺器官 ハヤカワ文庫JA

ハーモニー ハヤカワ文庫JA

ハーモニー ハヤカワ文庫JA


そして、本作では「物語」がキーとなる。

有形無形の文脈により綴られた物語は、さながらプログラムのように人を動かす。

氏の死をもって「肉体が滅び意思が消滅しても物語として生き続けることを選んだ」などと考えるてしまうのはロマンチシズムが過ぎるかもしれないが、しかし実際に多くの作家に影響をあたえ、本作を完成させたのだ。


昨今、逝去した天才作家として「伊藤計劃」の名がいたずらに使われ、当人の意志にお構いなく便利に利用されている感じに、些かの嫌悪感を感じる方も少なからずいるように見受けられる。

僕もものによってはそう感じてしまう時もあるが、しかし残された僕らは「物語」を咀嚼するより他ない。

義務教育国語な発想では「作者の意図」を読み取れなどと教育しているが、現実に存在しているのは記録と文章のみである。

エンジニア的な発想になるが、プログラムは作用してこそ意味がある。

架空の「答え」を探すのもそれなりに楽しくはあるが、それよりは「物語」が作用して生み出す効果について見ていくのも面白いかもしれない。

余談

伊藤計劃氏の『ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』をきっかけにしてメタルギアソリッドシリーズのノベライズも追っているのだが、新作『ピースウォーカー』には本作の影響が感じられて興味深い。

もちろん単語レベル文章レベルでの影響もそうだが、死んだ「ザ・ボスの意志」をめぐる物語であるという点が、どことなく伊藤計劃氏の作品をめぐる昨今の状況を彷彿とさせるのだ。

作品をまたいでマクロに楽しめる。

2013年に読んだSF小説

昨年は何かとSFジャンルの小説を読む機会が多かったので、折角なのでまとめてみた。

『一九八四年』

一昨年末あたりに『1Q84』読んだり、なにかとタイトルを見かける機会があったので興味があって読んでみた。

古典的な「一部の権力者が強権的に支配し、市民が自由を奪われているディストピア」を描いた作品であるが、その支配の要となっているのが「情報の管理」であることが興味深い。

作中で『情報をコントロールできれば過去を書き換えることでき、過去を書き換えることができるということは未来を支配できる』という言葉が出てくる。

作中の文章を伝える空気伝送管や監視カメラの想像力は、そのまま現在のSNSにつながるものがあるように思う。

ただ一つ違うのは、その監視を行うのが一部の支配者ではなく、万人が他人を監視する世の中になっているということだろうか。

『すばらしい新世界』

『一九八四年』と双璧を成す古典ディストピア小説。

当時本作をネタ元(?)にした『新世界より』のアニメがなかなかおもしろかったこともあって読んでみた。

すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)

すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)

先に読んだ『一九八四年』では「不自由な生活を強いられる市民」の存在が如何にもなディストピア像を作り出していたが、本作では真逆の一見ユートピアのような世界を舞台としている。

市民は科学技術の発展によりあらゆる苦痛から開放され、あらゆる快楽を謳歌する。

人々の欲が経済を回すシステムの裏側で、それに反するあらゆる要素が否定され、居場所が無くなってしまう。

『一九八四年』が共産主義的想像力の上になり立っていたのに対し、本作ではその対極としての資本主義の延長上にもディストピアがあり得るという想像力が面白い。

『ハーモニー』

新世界より』と共に『すばらしい新世界』的な世界観の作品として挙げられていたので読んでみた。

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

新世界より』が『すばらしき新世界』のファンタジー化(正確には・・・)した世界であるとすれば、本作は舞台を現実的な近未来に持っていたような世界であるように思う。

全ての人々が社会的リソースとして重んじられ、タバコや酒その他あらゆる「悪そう」なことは制限される、PTAが全世界を支配しているかのような世界が舞台。

最初は文体に読みにくさ(実はこれにも重大な意味があり、最後に明かされる)に戸惑うが、中盤以降からのスピード感と驚愕の展開の連続には引き込まれる。

そして、僕らがほとんど無意識的に受け入れてきた「ある前提」を揺さぶられることになる。

その他伊藤計劃著作

『ハーモニー』があまりにも気に入ったため、伊藤計劃氏の著書を大人買いしてしまった。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

『ハーモニー』でも言及がある過去の世界、そして現実の世界からすると近未来の世界を舞台とし、米国のテロを防ぐことを目的として特殊部隊の隊員が主人公。

メタルギアソリッド好きならば刺さること間違いなしの「ミリタリー」「アクション」「テクノロジー」そして「陰謀」の要素が散りばめられている。

そして『ハーモニー』にもつながるテーマを垣間見ることができる。

ゲームのノベライズであり、基本的にシナリオに逸脱しない話ながら、その中で存分に伊藤計劃色を出しているのが凄い。

The Indifference Engine

The Indifference Engine

虐殺器官』と『ハーモニー』の間に書かれた短編集。

個人的にお気に入りなのは007をモチーフとした『From the Nothing, With Love』。

シリーズの役者の代替わりをネタとしつつ、更にそこに『ハーモニー』につながるテーマを入っている。

Gene Mapper

セルフパブリッシングで異例の大ヒットということで話題になった本作だが、著者は原稿を通勤中にiPhoneで描き上げたというからより驚く。

Gene Mapper -full build-

Gene Mapper -full build-

SFに限らず多くの文学作品において「反科学・反権力・反資本」のスタンスからの視点で、それはそれで面白くはあるのだが、それが行き過ぎると人の進歩への否定になっていたりもする。

詳しく述べるとネタバレになりそうだが、本作はそういう前提をスパッと切っているところがエンジニア的に凄く共感できた。

また、結構Web関連の技術ネタが出てくるので、このあたりのジャンルの人は凄く楽しめるのじゃなかろうか。

『いま集合的無意識を、』

伊藤計劃への言及があるということで読んでみた。

正直なところを言えば、表題作についてはあまり面白いと思えなかったのだが、『戦闘妖精・雪風』のスピンオフ作品である『ぼく、マシン』のパーソナルコンピュータ観には共感できた。

戦闘妖精・雪風』シリーズ

『いま、集合的無意識を』からの『戦闘妖精・雪風』。

戦闘妖精・雪風(改)

戦闘妖精・雪風(改)

タイトルや断片的に得ていた情報から「SF要素もある空戦もの」なイメージを持っていたが、意外な程に本質は哲学的SF作品だった。

それぞれの巻でそれぞれ表現方法が異なっているのが凄い。

『言壺』

神林長平作品ということで。

言壺

言壺

「言語」と「ネットワーク」が交差するとき、人の意識が揺らぐ。

『言壺』感想 - そんな今日この頃でして、、、

マルドゥック・スクランブル』シリーズ

タイトルは何度か耳にしたことがあり、また攻殻機動隊ARISEの脚本の人だってことで。

設定的には攻殻機動隊ライクな義体使いの少女バロットの活躍する物語なのだが、あちらはひたすらハイレグ少佐のハッキング能力と人間離れしたアクションで動かしていく話だったのに対し、こちらはどちらかというと強化された知覚能力に焦点をあてて動かしているのが面白かった。

その他

『マイノリティリポート』、映画が凄く好きなんだけど、原作は全く話が違って驚いた。

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

評判は良かったんで読んでみたんだけど、正直あんまり楽しめなかった。

人形つかい

人形つかい

ちょっと期待したのと違った。

どうも僕はアメリカ人的な宇宙人ならなんでもあり感て苦手。


あと漫画だけど、

まさかの士郎正宗原作、六道神士絵ということでどんな感じだろうかと怖いもの見たさで買ってみたが、蓋を開けてみれば全く違和感なかった。

よくよく考えれば両者ともエロ・アクション・メカな画風を得意としてるわけで、実は順当なコラボだった。

中身はというと割と(漫画の方の)攻殻機動隊寄りの義体使いの少女の話。

とりあえず続刊も買って行きたい。

さて今年は

僕はこの年代にしては珍しくドラクエシリーズをやったことはないし、幼少〜少年期に漫画アニメに縁がなかったこともあり、これまでの人生であまり「ファンタジーもの」を通過しなかった。

そのせいで、近年流行している「ファンタジーパロディーもの」を十分に楽しめていないような気がして勿体無く思っていたりする。

そんなわけで、今年はKindle版も出たことだし『ロードス島戦記』シリーズあたりに手を出してみたい。

SFでは、『マルドゥック』シリーズの続編とか『動物牧場』とか、あまり評判は良くないのだけど『屍者の帝国』あたりを読んでみたい。