そんな今日この頃でして、、、

コード書いたり映画みたり。努力は苦手だから「楽しいこと」を探していきたい。

『ザ・ウォーク』感想

 以前に超映画批評サイトのスクレイピングをした際に高評価で気になっていた作品。(あのサイトは個別には変なこと書いてたりするけど、大まかな点数の感性にはそこそこ信頼が置けると思ってる)

 本作はNYのワールドトレードセンターの屋上にワイヤーを通して綱渡りをした実在の大道芸人フィリップ・プティの伝記映画。CGを駆使すれば宇宙の果てにだって行けてしまう現在においては些か地味な題材なんじゃないかと思ってたんだけど、いやはや見当違いだった。本作は断じて映像のスリルを楽しむ映画などではなく、綱渡りという表現方法に魅せられたアーティストの生き様を描いた作品だった。


 フランスの少年のフィリップ・プティは、ある日サーカスで見た綱渡りに魅せられた。才能にも恵まれた彼は、やがて大道芸の道を進むことになる。高い建物を見かけては無断で、時には法を犯してまで命綱なしの危険な綱渡りのパフォーマンスを行っていく。

 そんな日々の中で偶然ワールドトレードセンター建築の記事を見かけたフィリップは、その2つの塔の間を綱渡りしたいという強烈な発想に取り憑かれる。その狂気にも似た思いは他人をも魅了し、やがて彼の周囲には協力者が集まりはじめる。あらゆる無謀を乗り越え、彼の一世一代の挑戦が始まるのだった。


 安全性も合理性も無く、ましてや主義主張も無い。ただただ綱渡りという行為への偏執的な執着。冷静に考えれば彼の成したことはある種のテロだ。違法に建物に侵入するし、安全確保のために経済活動を停止させる。もし失敗すれば建物の価値も大きく毀損するだろう。

 だが、人々は彼の挑戦に足を止め、驚き、やがて応援してしまう。狂気が他人に伝染し、感じさせて動かす様は正に芸術と呼ぶにふさわしいだろう。

 物語のクライマックスはもちろんツインタワーの綱渡りであるが、そこに至るまでにいかにして共犯者を得て過去に類を見ない規模の綱渡りを現実のものにするかを計画し実行する様は実にドラマチックで見応えがあった。


 本作はフィリップ・プティの偉業の物語であると共に、ワールドトレードセンターの物語でもある。当初は威圧的で不格好と不評だった一対の巨大なビルが、やがてNYの顔として、あるいは「World Peace through Trade」(貿易を通じての世界平和)というグローバリゼーションの象徴として受け入れられていく。

 その愛着の一端が感じられるだけに、それが失われた911テロのショッキングさも同時に察せられてしまうから、時代性ある見事な映画である。