全く予期していなかったジャンルの作品で、 図らずも自分の「物語」への趣向の本質を知ることになろうとは!
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本作は19世紀末ロンドンを舞台とした二人の奇術師の確執を描いたサスペンス映画。
サスペンスというジャンルはそれほど好みでもないのであまり期待せずに観ていたのだが、 本作のテーマこそがまさに僕がSFやディスピア作品に求めていたモノだということに気付かされたのは思わぬ収穫だった。
鳥カゴのマジック
本作において幾度となく登場するモチーフ。
テーブルの上に置かれた何の変哲もないカゴと小鳥。 布で覆い隠して、上から一気叩き潰す。
あわや凄惨な光景を想像しながら布を取り払ってみると、 そこにはあるべき潰れたカゴも小鳥の死骸も見当たらない。
テーブルには隠せるスペースなどない、 カゴも鳥もこつ然と消えてしまったのだ。
一体何が起こったのだろう、困惑顔の観客の前に、 奇術師はどこからともなく小鳥を取り出してみせる。
なんだ小鳥は無事だったのか、めでたしめでたし。 そうして喝采に包まれ、マジック終了。
だが、奇術は魔術ではない。当然仕掛けがある。
テーブルの天板を開けると、そこには無残に潰れたカゴが収まっている。 そして小鳥の死骸も・・・
マジックの最後に登場した小鳥は、別の似た小鳥だったのだ。
まさかショーのためだけに命を奪うなんてことはあるまい、 そんな観客の観念の間隙を突き奇術師はマジックを成功させるのだ。
人間性の限界点への挑戦
ボーデンの「奇術のためなら人生さえも犠牲にする」という台詞にもあるように、 観客を欺くためにどこまで賭けられるかの覚悟が奇術師としての技量に直結する。
すなわち、「前提」を突き崩すためにどこまで己を切り崩せるか。
僕はこの「人間性の限界点への挑戦」とでもいうべきテーマに、SFの面白さの真髄を見た気がした。
それを念頭に自分が好きなSF作品のどこに惹かれるかについて考えてみると、 『シドニアの騎士』なんかは劇中の何気ない要素が現代的な倫理観の外側にある感じにSF的なトキメキを感じたのだが、 これもまさに「人間性の限界点への挑戦」だろう。
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また、『ハーモニー』の話の格子となっている「発想の転換」もまた、 「人間性の限界点への挑戦」といえるかもしれない。
自分が好きになる作品の共通点が何となく見えた気がした。
当初アンジャ―は鳥を殺さないマジックを模索していたことにも表れているような「ぬるさ」があり、 それがボーデンに対して劣る原因であった。
貴族出身と孤児というバックグラウンドが、その覚悟の差となっていたのだろう。
だが次第に執念が狂気へと変貌し、それがボーデンの覚悟をも上回ることで、 アンジャ―は奇術勝負における勝利を掴みとったのだ。
しかし、結局のところアンジャ―とボーデンの選択のどちらが「人間性」あるものだったのだろうか、 僕には判断がつかない。
見ようによってはボーデンのそれのほうが残酷なようにも思えてしまうし、 それ故の結末だとも考えられなくもない。
このエントリを書くためにググってて知ったのだが、どうやら原作は「SF」ジャンルのものだったらしい。
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なるほど僕のようなSF好きには刺さるが、一方で正統派なサスペンスを期待する向きからすれば、 後半の転調はだまし討ちのようで受け入れがたいものだったのかもしれない。
まあ何にせよ僕は凄く面白いと思ったけどな!
しかしまた19世紀末英国という舞台設定の魅力よ。
本作は79回アカデミー賞の撮影賞と美術賞にもノミネートされたらしいけど、 それも納得の映像的な世界観表現。
個人的には『屍者の帝国』を彷彿とさせられるところだけど、 どうにも産業革命~20世紀初頭までの英国の時代感というのはフェティシズムを刺激させられるものがある。
考えてみればこれも「人間性」が大きく変容した時代だったからなのかもしれない。