Project Itoh第二弾『ハーモニー』。
- 出版社/メーカー: アニプレックス
- 発売日: 2016/03/09
- メディア: Blu-ray
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原作は三作の中で最も(というか僕の人生の中でもかなり上位に入る)好きな作品である一方、 内省的に淡々と進む、絵面としては盛り上がりに乏しい作品というイメージもあり、 映像化の報を聴いた時には一番不安だったりもした。
前作がSF的な要旨を外した出来だったことや、今作も事前にTLで辛口な評判を目にしていたこともあって、 正直なところあまり期待せず観に行ったのだが・・・
個人的にはそれなりに悪くない出来だったんじゃないかなと思う。
前作同様にキャラクターの行動原理を情念的なところに委ねてしまうノイタミナの悪癖は発揮されていたものの、 SF要素は流石に物語の根幹に関わる部分なだけあって欠かされてはいなかった。
絵的にはいくつか引っかかりを覚えたものの、作品の価値を損ねるほどではないかったという感想。
ハーモニー飯、もう一皿。トマト、モッツァレラチーズ、オリーブオイルにクレイジーソルト。真っすぐ盛りつけた方が見栄え良いな。
カプレーゼ作った、えう。
安定の沢城さん
主人公トァンを演じるのはもはやベテランな感すらある沢城みゆき。
トァンは姉御的な側面と少女的な側面とが同居した難しい役柄だが、 流石はロジコマから峰不二子までこなす声優さんというべきか、 キャラクターのニュアンスを上手く表現していた。
物語の多くの部分がトァンの独白で進むが、 上映時間中ダレないのは沢城さんの力量によるところも大きいように思う。
パンフレットのインタビューでの、 トァンというキャラクターを「個性がない、空っぽ、どこかフォロワー」と捉えているというあたりは読んでいてハッとさせられた。
「このからだは」の下りの映像描写が悪くて、原作読んでないと多分普通の百合っぽく見えちゃうけど、 あくまでミァハは道連れを探していただけで、トァンはどこまで行っても片思いなのだ。
大人になりタフな女を気取っていても、その実どこか世界に甘えている、許されるであろう範囲で悪ぶっているだけの痛い少女なのだ。
映像面はやや不満
先に述べた通り、この物語は絵面的な盛り上がりに乏しい。
『屍者の帝国』のようなスチームパンク・ロマンもなければ『虐殺器官』のような派手な戦場も無い。
ましてや物語のほとんどが独白と会話とで進むわけで、 映画では苦心の跡がみられた。
3Dで構成されたキャラクターの周りをぐるりとカメラが周り、 細胞のような意匠が多用され・・・
だが、それらが有効に作用しているとは感じられなかった。
作中のビジュアルで特に不満に感じたのは日本の街並み。
(パンフレットによると監督直々の指示があったらしい)生体組織のようなグロテスクな幾何学デザインの建物群は確かに面白くはあるんだけど、 世界観を汲むならば何の感情も催さない過剰に清潔感のある線の少ない建造物であるべきだったと思う。
また、3Dキャラクターは一昔前のものに比べると格段にうまく動くようになっているものの、 やはりどこか端々で「カクカク感」が見て取れてしまうのが残念だった。
(門外漢的には画を動かすという意味では手書きより3Dの方が枚数増やしやすくて楽なように思えてしまうのだけど、 あれは何が原因なんだろう?)
なまじ前作が映像的にはグッと来ていただけに、 今作の映像面に関してはパンチに欠ける、退屈な印象となってしまった。
唯一バグダット市街での銃撃戦は見応えがあったけど。
百合描写について
事前に目にしていた不評の多くが、ラストの百合的な改変についてだったりする。
小難しい動機を「アナタノコトガ-トゥキダカラ-」で安直にまとめてしまうのは邦画の悪癖だと思っていて、 前作『屍者の帝国』ではそれが作品のSF要素を致命的なまでに損ねてしまっていたけれど・・・
今作では個人的にはそこまで大きな問題ではないかな、と思っている。
人間の情念的な部分、合理性をかなぐり捨てても成し遂げたいこと。
作品の本意はそのあたりだと思っていて、幸いにして改変と物語とが噛みあっているように感じた。
単にラストのトァンの台詞だけだとヤンデレ的な感じにも聞こえるけど、原作の復讐のニュアンスがそこに含まれている、 と感じたのは僕の脳内補正が効きすぎているだけの可能性もあるけど。
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/08/01
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全体を見渡すと百合的な描写に力がいった分、「過剰なまでに優しい」世界観の描写が弱い印象。
原作未読だとちょっと飲み込みづらいかもなという気がするし、 原作既読ゆえに引っ掛かりを覚えてしまう部分もある。
けれども十分に楽しめる作品には仕上がっているように思う。
次はとうとう『虐殺器官』。
- 作者: 伊藤計劃,redjuice
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/08/08
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絵的な盛り上がりどころはかなり多いので期待できる反面で「虐殺の文法」を画面でどう描いてくるのかは気になるところ。
いつ公開になるのか分からないが、楽しみに待ちたい。