Googleの囲碁AIがプロ棋士に勝ったニュースが話題となっている今日この頃。
IBMのディープ・ブルーがチェス世界チャンピオンのカスパロフを破ったニュースに科学の可能性をみてワクワクし、 一方で「将棋では持ち駒などがあるため人間を破るのはまだまだ先だろう」とか「囲碁はそれよりも更に時間を要するだろう」とかいった評にボードゲームの奥深さに胸を躍らせた幼少の頃が懐かしい。
さて、奇しくここ数日のあいだ通勤時間や入浴時間に読み進めていてた小説が、 そんな囲碁や将棋やチェスなどのボードゲームを題材とした小説『盤上の夜』だったりする。
- 作者: 宮内悠介
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2014/04/12
- メディア: 文庫
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本作は短編集の体裁をとり、
- 四肢を奪われた少女が至った囲碁の深淵を描いた表題作「盤上の夜」からはじまり
- チェッカーという完全解析されたゲームとその最後の世界チャンピオンから人とは何かを問う「人間の王」
- 麻雀を舞台としたアクの強いキャラクターたちの群像劇「清められた卓」
- 歴史ロマンあふれるチャトランガを題材とした「象を飛ばした王子」があったかと思えば
- ある兄弟の将棋を通じた対立と和解の物語「千年の虚空」で人に語られる歴史の空虚さを説き
- そして、再び碁に題材を戻しての「原爆の局」
といった作品が収録されている。
ギャンブル漫画さながらのヒリつく対戦から思弁的小説のような心地良い難解さまで個々にもバラエティに富んでいて面白いのだが、 さらにはその全てを読み終えた時に感じる構成の妙に唸らせられる。
求める結果(=勝利)から逆算して選択肢が有限であるならば、そこには完全解が存在する。
だが人の思考力はそれに到達するには弱すぎる。それこそがゲームとしての強度となるのだ。
対面の敵を相手としながらも、その内面で自分と戦う。
己の知力と気力の限界に挑み、それでも足りない部分を運にすがる。
本作でも出てくるところだが、この対局中の思考のメタファーとしての「潜る」という描写は個人的にはすごく共感できるというか、 秀逸だと思うんだよな。
『ハチワンダイバー』のイメージが強いとこだけど、こういう表現の元ネタって何かあるんだろうか。
ハチワンダイバー 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
- 作者: 柴田ヨクサル
- 出版社/メーカー: 集英社
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数学的には完全解があるとされる、 本質的には無意味とも思える行為がなぜ人をここまで惹きつけるのか。
さきにゲームの強度という表現をしたが、 「クリアできそうでできないゲーム」と「クリア不可能なようで可能なゲーム」の均衡点が人を惹きつけるという『AVALON』の話を思い出す。
- 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
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盤上の仮想世界の中で練り上げられた定石に、苦悩を記した棋譜に、人の思考の轍を見るのだ。
対局とは相手との知力勝負であり己の限界への挑戦であると同時に、 対戦相手と協力して一つの作品を作り上げていく作業でもあるのだ。