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そんな今日この頃でして、、、

コード書いたり映画みたり。努力は苦手だから「楽しいこと」を探していきたい。

『横浜駅SF』感想

僕は小中学校時代を横浜市内で過ごしたので横浜駅にもそれなりに思い入れがあったりする。

娯楽の乏しい家庭だったこともあり、 週末ともなれば市営地下鉄に乗って横浜まで出かけていって大して小遣いもないのにハンズや本屋や模型屋やPCパーツ屋なんかに入り浸ってよく時間を潰したものだ。

ただでさえ数多の路線が交差する地上部に加えて地下鉄や近隣のデパートと接続された横浜駅の広大な地下街は、 上へ下への階段や視界の効かない曲がりくねった地下道によって、 子供時代の僕には行きと帰りで同じ道を辿れないまさにダンジョンのような存在にも思えた。

そんな幼少体験もあって「自己増殖する横浜駅」というアイディアには非常に興味を惹かれた作品だった。

それでもWeb媒体で長文を読むのはしんどいなぁと思って敬遠していたのだが、 ついに書籍版が発売されたということで早速買って読んでみた。

横浜駅SF (カドカワBOOKS)

横浜駅SF (カドカワBOOKS)


日常とSFの交錯

まずもって本作の引きになるのがスイカや18きっぷ、 自動改札といったものをSFガジェットに仕立てている点だろう。

普段親しんでいる身近なものが生死を分ける貴重なアイテムとして扱われることのシュールさは単純に面白いし、 それを単なる一発ネタとして終わらせずきっちりと物語上のギミックとして活かしてくる技量にはとにかく感心させられた。

スイカによる独自の経済圏、海を挟む異文化圏JR九州、独自に高度に発達した技術を保有するJR北海道・・・

人知を超えた存在の脅威に晒されながら、しかしそれなりに適応して生きる人々。

あとがきによれば本作の着想には『BLAME!』の影響があるということだが、 自己増殖する巨大構造物やサイバネといった表層的な要素だけではなく、 冒険する中で出会う様々な生活模様の面白さなんかはなるほど共通する魅力を感じるところである。

(そういやBLAMEのアンソロジーノベライズ出るらしいですね、超楽しみ。 弐瓶勉さんの初期傑作コミック『BLAME!』ノヴェライズ刊行予定


様々な人々

「人々」ということでいうとどいつもこいつもクセのあるキャラクターたちにも読み進めていくと愛着が湧いてくる。

茶目っ気あふれるネップシャマイ、まだまだ何かを知っていそうなケイハ、ヒロインじみた萌えポイントのあるハイクンテレケ、 逞しい頭脳派な大隈、そして謎めいたユキエさん。

個人的にはトシルのキャラクター性は好みなので、続編でも出てこないものかと期待しているところである。


裏側にある壮大な世界、後に広がる物語

本作は無秩序に自己増殖を続ける巨大構造物の冒険譚ではあるが、 その中でチラ見せされる裏側の壮大な物語も想像力を掻き立てられて面白い。

駅として散らばった統合知性体という発想には初期のインターネットの「部分攻撃に耐えうる通信網」という目的を彷彿とさせられるし、 「暴走」の裏側に見え隠れする意図は本作だけではうかがい知れない世界の広がりを予感させられる。

本作自体、物語としての決着はつけながらもまだまだ謎も残ればその後が気になる人達もいるわけで、 次巻も必ず買いたいと思うところである。

横浜駅SF (カドカワBOOKS)

横浜駅SF (カドカワBOOKS)