11月12月と(ある程度評判見て行っているとはいえ)グッと来る映画続きで、なんだか凄く幸福感がある今日この頃。
今週はTLで評判が良さそうだった『ゴーン・ガール』。
ミステリー・スリラーというジャンルはそれほど好きではないのだが、これは巧みに配置された「仕掛け」によって2時間半の間もずっと良質な驚きを味わうことができた。
そんなわけで、この作品に関しては是非とも前情報なしで一度観て翻弄されることを楽しんでいただきたい。
もしまだ未鑑賞であるなら、すぐにページを閉じることをお勧めする。
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女性刑事は真実を見抜く?
歳をとる毎に、(悲しいことではあるが)物語から驚きを得ることは少なくなっていく。
望むと望まざるとにかかわらず過去に鑑賞した作品が頭をよぎってパターンが見えてしまい、結果として評価軸が「そのパターンでの表現の巧拙」「パターンへ入るための話の説得力」みたいなところばかりに目がいってしまうようになる。
さて、『ゴーン・ガール』がどうだったかというと、そういう視聴者がうまい具合に騙される作りになっている。
この手の作品の場合、刑事組織の中でそこまで強くない立場で主人公の側について真相を引き当てるような役が用意されていることが多い。女性刑事であればより一層そんな印象が強くなる。
そんなわけで、当初から主人公を犯人と決めつけなかったボニー刑事は正にそういう役どころなのではないかと錯覚させられた。
彼女に視聴者の視点を仮託してしまったことにより、画面上の主人公の行動に不可解な点が出てきてボニー刑事がニックが犯人であると確信したあたりで「あ、これは視聴者に開示されないだけで(あるいは記憶喪失とかのギミックで)主人公が犯人なパターンなんだな」とまんまと引っ掛けられてしまった。
想像力・錯覚
僕らは限られた情報から「わかりやすい物語」を想像してしまう。
『ファスト&スロー』の上巻では正にそういう話が扱われているのだが、人間の思考には頭の中でストーリーが一度出来上がってしまうとそれを追認するような要素にばかり目が行ってしまう作用があるらしい。
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曰く、「ストーリーの出来で重要なのは情報の整合性であって、完全性ではない。むしろ手元に少ししか情報がないときのほうが、うまいことすべての情報を筋書き通りにはめ込むことが出来る。」だそうだ。
作中の民衆同様に視聴者である僕も、冒頭に語られた過去の話から勝手に妻エイミーのことを「型にはめられることを嫌う人物なのだ」と思い込んでしまったし、またそれに合わせて主人公も「顔は良いが軽薄で、経済状況の悪化によって堕落した」という提示された事実から、犯行に至るストーリーを「創作」してしまったのだ。
「世間」が支配するディストピア
本作の大きな特色が、民衆の感情の怖さをこれでもかと描いている点だろう。
妻エイミーの歪んだ思考の根源が世間体を気にする家庭環境であったならば、最終的に主人公を縛るのもまた世間の評判なのだ。
「真実」よりも「世間の目にどう映るか」が重要な社会。
波風をたてず、上手に生きていくには「わかりやすい何者か」を演じていなければいけない。
「人間性の否定」を条件とするならば、これもある種のディストピアと言えるのかもしれない。
僕がこの狂気に満ちた物語で唯一希望として感じたのは、皮肉にもエイミーが襲われた際の「悪いことをすると、誰かに悪いことをされた時に助けてもらえない」という部分だけかもしれない。
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