映像表現・演技共に凄まじい出来だった。
ストーリー自体は単純な一方で、物語性としてはいささか咀嚼しにくいところがあるが…
圧倒的な映像美
まず目を惹いたのは美しく厳しい自然を背景とした「どうやって撮ったんだろう?」と思ってしまうような長回し。
荘厳な森林、迫り来る敵対部族、延々と広がる雪原。 そして何より、襲い来るグリズリーの生々しい恐怖感!
あとで『バードマン』と同じ監督だということを知って得心がいったところではあるけれど、 単純な臨場感の演出だけではなく、時間軸を超越する表現として長回しが有効に使用されていた。
怪演
絶望により蘇り、復讐心を糧として生きる幽鬼。
これを最近ではすっかり「一見すると普通っぽい狂人」な役のイメージがついてきたレオナルド・ディカプリオが怪演している。
凍てつく川に入り、生魚に食いつき…とかくそのあたりの撮影秘話は壮絶である。
そしてまた、その対となる復讐相手をトム・ハーディが実に悪そう!
『マッドマックス』ではあれだけ頼もしくみえた笑顔が、 こちらでは完全に悪の企みにしか見えないから役者というのは凄い。
復讐の物語
「失った家族のための復讐」「ネイティブアメリカンの道連れ」など本作の外縁だけなぞるとクリント・イーストウッドの『アウトロー』を思い出させられる。
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だが、こちらには「擬似家族による治癒」などという生易しい展開はない。
ポスターでは「復讐の先に何があるのか?」なんてトンチンカンなことが書かれてたりするが、 グラスは復讐に意味など求めてはいない。
存在意義そのものが復讐であり、憎しみにより生き永らえているのだ。
(「復讐心が駆動する生」というと『メタルギアソリッドV』を彷彿とするところだが… そういえばあっちのストーリーの感想はまだ上手くまとめられてなかった。)
規範の外側
冷静に考えるなら、隊長の当初のグラスを殺して歩みをすすめるという判断は、 危険な状況の中で隊の生存を図るためには理にかなったものだ。
そこを情で曲げたことがそもそもの発端でもある。
白人はネイティブ・アメリカンを規範の外にある蛮族と嘲り蔑むが、 その一方で白人自身も規範を破る。
人は全てを理屈だけで生きることはできない。
復讐に身を焼くグラスはもちろん、 我欲に囚われたフィッツジェラルドの根底にはネイティブ・アメリカンへの復讐心があり、 彼らを追撃するアリカラ族にも奪われたものの復讐心があり…
「On est tous des sauvages」人はみな野蛮なのだ。
仔熊を守る親熊の如く本能と衝動に駆動され、規範の外側へと踏み出す。 たとえそこに意味など無くとも。
そして、グラスは最後に復讐を自身の手ではなく神に委ねることを選択する。
野生から社会へ、規範の内側への回帰であるという風にも見えた。
最後の対決といい物語全体の構成といい、 爽快感とは無縁の重厚でひたすらに無常な映画だった。
おそらく色々の配慮もあってか、ネイティブ・アメリカンまわりの描き方がゴチャっとしており、 正直物語としては受け止め方に迷う部分もあるが、 そのあたりを差し引いても映像的に素晴らしい作品になっているので一見の価値はあると思う。
- 作者: マイケル・パンク,漆原敦子
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